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その狼は理解していた。
その道には、良いことなんてないことを。
途中の道端には暗い井戸があり、
とてつもない登り坂があり、
足が痛くなる砂利道がある。
でも、何度もその道に入ってしまうのだ。
あぁ、またこの道に入ってしまった…
今日も彼は、この道に入ってしまった。
後悔しながらも、彼はトボトボとその道を歩き続ける。
この道に入るきっかけは、単純なことだった。
”この道、とてつもなく険しい道、地獄道”
という看板が、分かりやすく掲げてある道だったからだ。
とにかく彼は、認められたかった。
こんな険しい道行く狼。すごいだろ。
そう思われたかった。
彼は、いつも誰かの視線を感じていた。
そして、その誰かに、この険しい道に入る自分の姿を見せるのだ。
彼は、そのことで認められたかったが、残念ながらそれは叶わなかった。
その道に入ることは、それなりの努力だったので、達成感があるはずだった。
しかし、その道に入ると嫌な気持ちに襲われた。
もしや、認められたいがために、この道を選んでいることを見透かされているのだろうか…
いや、この道を行ったくらいでは認められることに値しないのか…
世の中には、もっと凄い奴がいるんだ。きっと…
嫌な気持ちになる上にこんな険しい道を歩くなんて、まるで地獄のようだった。
しかし、彼はその道を通ることをやめることができなかった。
認められたい気持ちは、どんどん強くなった。
誰もいないところで、空に向かって吠えるほどだった。
いよいよ、頭がおかしくなりそうだった。
ある日彼は、またその地獄道の付近を通りかかった。
ちょうど近くに美しい鳥がいた。
思い切って、その鳥にこの道に挑戦する自分をどう思うか聞いてみた。
「そうなんですね。頑張ってください。そんなことより私のこと美しいと思います?」
彼はとても恥ずかしくなった。
誰もが自分のことだけで精一杯だったとは…
天地がひっくり返ったような気持ちだった。
恥ずかしさを隠すため、彼はそそくさと地獄道へと入った。
フラフラと歩く狼。
ふと井戸の周りを見ると紫色の花が咲いていた。
春だなぁ。ふと思った。
とてつもない登り坂を登ったら景色が素晴らしかった。
感動するほどだった。
足の痛くなる砂利道。丸い石の場所を把握した彼は、ヒョイっと渡りきった。
やるじゃん自分。自分を見直すとちょっと誇らしくなった。
あれ、この道、良いかも。
誰かが名付けた”地獄道”。天地がひっくり返ったから”天国道”となったのかも。
彼はそんなことを思い、何だか嬉しくなった。
彼は、清々しい気持ちで、空に向かって吠え続けた。