叫び続ける熊

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熊は屈強だった。

どんな敵にも負けない強さがあった。

しかも、頭脳明晰。

口論だってお手の物だった。

勝負という舞台においては、彼の勝利は確定しているのだ。

彼は勝負に勝つと「ウォーー!」と叫ぶのだった。

それゆえ、いつの頃からかどんなことでも彼は”勝ち”にこだわってしまう。

鮭の漁は、誰よりも多く獲り、

木の実の早食い競争は、もちろん優勝。

でも、決してズルはしない。

信号機が青に変わったら、誰よりも早く渡り、

誰よりも早く目的地に着いた。

高揚感とともに彼は「ウォーー!」と叫ぶ。

そんなことの積み重ねが、人生の勝利に繋がると思っていた。

しかし、彼の強さは暴走を始める。

自分だけではなく、他人の弱さや間違いが許せなくなってきたのだ。

なぜ出来ないのか。

なぜ間違うのか。

彼は、一つ一つを取り上げて、指摘し続けた。

もちろん指摘したからには勝ちにこだわった。理論武装はお手の物だ。

それが親しいものであればある程、許せなかった。

身近な人こそ強く正しくあれ、という気持ちからだった。

でもその気持ちが、彼の好きで好きでたまらない人を傷つけ続けた。

ある日、彼の好きな人が忽然と姿を消した。

彼は、動揺した。

彼に、少し心当たりがあったからだ。

彼女との口論に勝利したはずの彼は叫ばなかった。

そして、しばらくしてから「ウァーー!!!」と泣いた。

すると程なくして彼女は、綺麗なキノコを持ってやってきた。

「喧嘩したから喜ばせたくて…一緒に食べよう」

苦労して取ってきたようだった。きっと時間がかかったのだろう。

それは綺麗なキノコだったが、よく見ると毒キノコだった。

彼は、そんな間違いがたまらなく嬉しくなった。

熊は言葉にならない嬉しさで「ウォーーン !!!!」と叫んだ。

そして、毒キノコだと知った彼女と二人で大笑いした。

間違いが人を喜ばせることもあるのだ。

そんなことに気づいた彼は、人生の新しい”価値”を知ったのかもしれない。