↑ click preview
彼は、木の上が好きになった。
木の上で、いろんな雲の形を見るのが好きなのだ。
一方、彼のいる木の下には、ジャングルが広がっていた。
とても複雑なジャングルだった。
複雑なジャングルでの出来事が彼を木登り好きに変えたのだ。
彼は、数学がとても得意だった。
どんな難しい問題でも解くことが出来た。
彼のその才能から、各方面からチヤホヤされた。
欲しいものは全部手に入ったし、御馳走だっていっぱい食べた。
しかし、その裏で嫉妬の対象にもなった。
その嫉妬の広がりは止まる事がなかった。
ある日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
「明日から、1+1=3になります。」
彼は耳を疑った。
彼の今まで積み上げてきたものは一気に崩れ落ちたのだ。
もちろん彼は憤り、抗議した。
しかし、彼の訴えは脆くも却下されてしまったのである。
彼は、どん底へと突き落とされた気がした。
彼の栄光は去り、彼を気にかけるものすら、いなくなった。
しばらくの間彼は、どんよりと暗いジャングルを歩き回っていた。
程なく彼は、冷静に考えることにした。
そもそも”1”というのは、何なのだろうか。
“1”だって、誰かが考えた概念なのだ。
だったら、1+1が、2であろうと、3であろうと良いのか。
そもそも、私が正しいと思っていたのは、誰かの概念だったのだ。
そう考えた彼は、おもむろにスイスイと木を登り始めた。
そして、空を見上げて思った。
世の中は、あの雲のようにフワフワしていて、いつも変わっているのかも。
また、ちょっと冷静に木の下を見てみる。
相変わらずジャングルはとても複雑だった。
でも、ジャングルは、この大きな空に比べたらちっぽけだった。
そう思ったら、生きることはまだまだ楽しそうだと思った。
彼は、必死でしがみつこうとしていた。
でも、適度な力でいいんじゃない?と言われた気がした。
落ちたら落ちたで、また登ればいい。
そうして彼は木に登ることが好きになった。