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シマウマには、秘密があった。
でも、隠していない秘密だった。
彼は元々、黒毛の馬だった。
黒毛の馬のグループは、みんな走ることが大好きだった。
彼らは、とても速く走ることができた。
その走りは、周りの馬からも羨望の眼差しで見られることが多かった。
しかし、彼はある時、一本の白い毛が生えてきたことに気がついた。
その白い毛は年々、歳を重ねる度に増えていった。
所々に生える白い毛。
老いるということはこういうことか・・・
彼は必死で白い毛を隠した。
最初は、泥で隠していたが、とうとう、薬品にまで手を出した。
老いるということを到底受け入れることが出来なかったし、
黒毛の中に白毛混じりの自分がいることに我慢できなかったからだ。
彼の必死の抵抗により、白毛がバレることはなかった。
ある時、彼のグループは川を渡ることになった。
彼はベテランだったので、模範を見せると共に、みんなをサポートした。
彼は全員が渡った事を見届けて、陸に上がった。
すると、彼の姿がみんなの視線を集めた。
長いこと川に浸かった彼の体から、泥や薬品は流れ落ち、白い毛があらわになっていたのだ。
この事実は、彼をとても傷つけた。
次の日、彼は自らグループを離れた。
彼は、しばらくの間一人で暮らした。
どんどん増える白い毛。
時間にはどうやってもあらがえない。
そう思った彼は、思い切って諦めることにした。
全部やめてみることにしたのだ。
白い毛を染めることもやめた。
他人の気持ちを勝手に自分で決めつけることもやめた。
老いることが悪いことだと決めつけるのもやめた。
白い毛が生えることが悲しいことだと決めつけることもやめたのだ。
彼は白い毛を隠さずに外に出ることにした。
昔よりちょっと遅いけど、相変わらず走ることは大好きだった。
だから、走った。
「あのシマウマさん素敵ね」
そんな声が聞こえた。
そうか。シマウマか。いいじゃん。
確かにシマウマのような風貌になった彼は、変わることを受け入れた。
彼の世界は変わった。
白い毛は、面白いことがあったら生えるものなのかも。
おも”白い”だけにね。
そう思うだけで、世界はとても面白くなった。